今年は大滝詠一の代表アルバム「ロング・バケーション」のリリースから40年(1981年3月21日発売)ということで,4月以降,このアルバムの特集などがよく放送されているのですが,その影響を受けて,先日,40周年記念盤をつい購入してしまいました。
私自身,実は1981年の発売時にはこのアルバムはリアルタイムでは聞いておらず,数年後に妹が持っていたカセットテープ(レンタルレコードから録音したもの)を聞いてその存在を知りました。当時,大滝さんについては,松田聖子の「風立ちぬ」の作曲家という印象。その後も,歌手というよりは,「イエローサブマリン音頭」のプロデューサー,クレージーキャッツの再発見者といった「ポップスに関するマニアックな研究者」的な捉え方をしていたのですが,次第に「ロング・バケーション」のサウンドが好きになり,今に至っています。
今聞いても,古い感じがしない...という感想は,私自身,このアルバムに馴染み過ぎて,客観的に判断できなくなっているからかもしれませんが,「聞いても飽きない」ということは確かだと思います。1980年代のバブル前の明るい空気感をいつまでも伝えてくれる「エバー・グリーン」なアルバムだと思います。
考えてみると,ちゃんとした音源を持っていなかったので,40年目にして初めてCDを購入することにしました。
やはり,アルバムの最初に収録されている「君は天然色」。この曲が何といっても素晴らしいですね。大滝さんの音楽の魅力が詰め込まれており,聞けば聞くほど好きになります。
まず,曲が始まる前にピアノの音を中心としたチューニングの音が結構長く入っています。これが独特です。スタジオでのこだわりの音作りへのオマージュのような雰囲気と,内輪うけの「遊び」的な気分を感じます。そして,曲がスタート。3連音符が連続する,厚みのあるサウンド。この最初の部分を聴くだけで,空気が1980年代に戻る感じです(鈴の音がシャンシャンと入っているのが独特です)。この部分は,現在でもCMなどで使われていますが,私と同様に感じる人が多いのかもしれませんね。そしてそれに続く「チャンチャン・ス・チャチャ」というリズム。このリズム感,実は大滝さんの好きな「音頭」のリズムだと思います。
最初の歌詞の「唇つんととがらせて...」この部分も良いですね。声が入った瞬間に,イントロ部分から,パッと鮮やかに気分が変わります。大滝さんのノビノビとした,湿度が少ない感じの声質。この曲はこの声でなければ,というハマり方だと思います。その後,ベースだけが3拍子になる部分もインパクトがあります。野球のバットでボールを打つような不思議な効果音が入っていたり,凝りに凝っているのですが,馴染んでしまうと「これしかない」というアレンジだに感じます。
「想い出はモノクローム...」「もう一度そばに来て...」と畳みかけるように盛り上がる部分も癖になります。歌詞は,全曲松本隆さん。このアルバムの「エバー・グリーン」な感じは,松本さんの詞の力も大きいと思います。このアルバムを作っていた頃,松本さんは,妹さんを亡くされているのですが,その時の心情を「モノクローム→色を点けてくれ」という歌詞でしっかりと反映し,鮮やかな楽曲としていつまでも残っている点がすごいと思います。
そしてインストゥルメンタルだけの間奏部も「これしかない」という部分です。電子オルガンの音の後,リゾート感たっぷりのギターの音。これも他に変えられないサウンドで,この部分になると,妙にせつなく懐かしい気分になります。
ちなみにこのギターの部分のメロディですが,大滝さんが過去に色々作っていた曲を再利用し,組み合わせたものです。40周年記念アルバムの特典として「Road to A Long Vacation」というCDがもう一枚ついていたのですが,この中で,このアルバムの制作過程について大滝さんが色々な音源を駆使して語っています。この内容も大変面白いもので,下積み時代に作っていた音楽の総決算がこのアルバムだということがよく分かりました(言い換えると,アレンジと歌詞の素晴らしさとも言えます)。大滝さんは,メロディを鼻歌のように歌いながらデモテープを作っていたのですが,大滝さんの曲の心地良さは,この辺に秘密があるように思いました。
このアルバムが素晴らしいのは,「君は天然色」のようなこだわりのサウンドがすべての曲に当てはまることです。基本的には,エンジニアの吉田保さんによる,リゾート感のある厚みのある心地良いサウンドなのですが,曲ごとに変化を加えたり,工夫したり,遊んだり...真剣に遊んでいる感じが伝わってきます。
ちなみにアルバムの最後に収録されている「さらばシベリア鉄道」については,太田裕美さんのバージョンの方が「本家」と思ってしまいます。やはり,「最初に聴いたもの」に刷り込まれるということは言えそうですね。
8月も残りわずか。今年の夏は,「ロング・バケーション」というよりは「ロング・レイニー・シーズン」でしたが,このアルバムを聞きながら,過ぎていく8月を惜しみたいと思います。