2021年7月3日土曜日

7月になると観能の夕べのシーズンに。石川県立能楽堂で狂言「因幡堂」と能「籠太鼓」を鑑賞。両方とも夫婦関係がテーマ。近くで観たせいか面の美しさに魅了されました

 毎年7月になると,石川県立能楽堂は「観能の夕べ」のシーズンになります。毎週土曜日の夕方に狂言と能を1つずつ,1000円で楽しむことができます。今日が今シーズンの初回でした。

コロナ禍の影響か年齢の影響か,近年,能の静かさに妙に惹かれてきているのですが,本日はとても良い席で観られたこともあり,益々その魅力を実感できました。

本日上演されたのは次の2つの演目でした。どちらも夫婦関係がテーマでした。

狂言「因幡堂(いなばどう)」 男:炭光太郎,女:清水宗治

能「籠太鼓(ろうだいこ)」シテ:高橋右任,ワキ:殿田謙吉

狂言の方は,大酒飲みの妻と離縁して新しい相手を見つけたい男が,薬師如来にお願いする話です。しかし,妻の方が一枚上手,いつの間には薬師如来になりすまして,逆に妻から懲らしめられるというお話。どこか,「フィガロの結婚」を思わせる面白さがありました。炭さんの晴れ晴れとした声を聞くと,気分が晴れますね。

能の方は,殺人の罪で捉えられていた夫が脱牢してしまったので,代わりに妻(シテ)が九州松浦の何某(ワキ)の管理する牢に入るが,悲しみと不安のあまりに狂気の世界へ,というお話。前半・後半に分かれておらず,「実は〇〇」「夢でした」というパターンではなかったので,普通の時代劇といった感じでした。最後,松浦の何某が妻の夫を思う気持ちに免じて許されるのですが,牢が舞台という点で,ベートーヴェンの「フィデリオ」に通じるお話だと思いました。

能のシテは「曲見(しゃくみ)又は深井(ふかい)」の面。調べてみると,中年女性の面ということでしたが,この表情が美しいなぁと思いました。今回は真正面の近距離から観たので,特にその表情の美しさを実感しました。夫を思う気持ちがそうさせるのか,妙に艶めかしく感じました(これは私のメンタルの反映なのかもしれませんが...)。そして,常にシテに同情的だったワキの深みのある声も良いなぁと思いました。

どちらも初めて観る演目でしたが,夫婦という点で統一感もあったのも良かったですね。充実感のある時間を過ごすことができました。

土曜日午後は,オーケストラの演奏会もあるので,恐らく毎回行くのは難しそうですが,これからは猛暑の季節なので,「避暑」も兼ねてまた観に行きたいと思います。