私自身,ミステリーはほとんど読まないのですが,人気作家が考えていることを生の声で聞くことができますので(しかも入場無料),毎年,他に用事が亡ければ,聞きに来ています。今年も,県立図書館の職員の方によるインタビュー形式で約90分,加納さんの小説をこれから読んでみようかな?という人(=私のことです)にぴったりの話を楽しむことができました。
加納朋子さんは,1992年に第3回鮎川哲也賞を受賞した『ななつのこ』でデビューされたミステリー作家で,映画化された『ささらさや』(2014年)や闘病記『無菌病棟より愛を込めて』(2012年)など話題作を多数発表されています。傾向としては,殺人事件の解決する長編よりは,「日常の謎」を解く連作短編といったタイプの作品が多い方です。
ステージはこういう雰囲気 |
1 金沢について
- 以前,バスツァーで来たことはあるが,今回の訪問が実質初めて。
- 今回はゆっくりできそうです。
2 幼少時代の読書とミステリーとの出会い
- ポプラ社のルパンとホームズのシリーズから読書はスタート #これまで,いろいろな作家さんのお話を聞いてきましたが,このパターン(+江戸川乱歩)は多いですね。日本ミステリー界へのポプラ社さんと学校図書館の貢献は多大だと思います。
- クリスティ作品については,親からすべてネタバレ形式(?)で紹介されたが,そのことでミステリー好きになった。
- 中学生の頃,ブラウン神父シリーズを読み,キャラクターとトリックの面白さを知った。
- 高校生時代は...暗い歴史...
- 短大生になり,好きな勉強ができるようになり,とても楽しかった。『ななつのこ』の描写のもとになった部分もある。
3 小説を書き始めたきっかけ
- OL時代「他人に比べると自分はつまらない」と思い,落ち込んだことがあった。
- その頃ワープロを購入し,何かを書いてみたいと思いつき,書き始めた。それが『ななつのこ』の中の一部
- 妹が次を読みたいと言ってくれたので,他の短編も書き,合計7編をまとめ,東京創元社の鮎川哲也賞に応募。それが入賞し作家になった。
4 『ななつのこ』について
Q: 主人公の駒子は加納さんがモデル?
A:そうである。これは正解だったが,後悔した点もある。
駒子シリーズは,『魔法飛行』『スペース』と続いているが,その後,他の作品を優先する必要があり,次作は書けていない。
Q: 加納さんの作品には数字の7にちなんだタイトルが多いが?
A:短編集の本数的に書きやすい数ではあるが...#特にこだわりはないようです。
5 題材やキャラクターについて
Q:『ガラスの麒麟』は珍しく殺人が出てくるか?
A:自分の身の回りで起こった,怖い体験の影響で書いたものである。その他,身の回りの出来事からネタを拾うことは多い。
小説に登場する人物については,会社時代の知人,幼なじみなどがベースになっていることがある。
Q:ふわふわして守って上げたいようなキャラクター以外にも山田陽子のような対照的なキャラクターもいるが...
A:『レインレイン・ボウ』については,七人七様のキャラクターを作るのがコンセプトなので作った。『七人の敵がいる』の山田陽子については,今では「友達になりたい」と思っているキャラになった。
6 作品の映画化について
映画化されると確実に発行部数が伸びるので嬉しい。版元に恩返しができる。
Q:自作のドラマは観ますか?
A:観る。試写会や撮影現場の見学にも行く。新垣結衣にも会った。
7 アンソロジーについて
- 作家は孤独である。しかし,同じ小説家にしか分からない悩みもある。
- その点でアンソロジーは楽しいが,他の人の作品を読むと「みんな偉い」と思ったり,プレッシャーが掛かることもある。
8 『ささらさや』について
Q:とても泣ける話でした。一節を読んでいただけますか?
A:加納さんが「おばあさん手紙」の部分を朗読(本はいいよ。本の中の人物が泣いているとホッとする。人生の中でそういう気分になるときに読むとよい...といった部分)
人間の感情は,動かされることで癒やされる。疑似体験でも良い。それで楽になる。
#この言葉は良い言葉ですね。朗読同様に心に染みました。
9 執筆について
- プロットについて:『ななつのこ』の入れ子構造などの大きな枠は先に決める。
- どこから書く?:作品による。伝えたいフレーズが先に浮かんだ時などで,最後にピースがはまるように収まると気持ちよい。
- アイデアやトリック:ネタの芯は新聞,テレビ,ネットなどで拾って,それを広げることが多い。日頃から,電車の中の知らない人同士の会話に耳を澄まして聞いていたりする。人物の背景や考えたかが見えてくるが,妄想が広がりすぎて困ることがある。
- 取材:人物が生き生きしているが取材しているのか?特にしていない。自分の若い頃を思い出したり,上述の人物観察による。
- 一人称:手紙や本がドラマの中によく出て来て,一人称が多いが?特に意識はしていないが,自分に近い一人称の文体でデビューしたのは良かった。一人称だと破綻しにくい。
- キャラクターの作り方:自分をモデルにする場合以外に「どうすればストーリーがうまく転がるか?」と考えると必要な人物が出てくる。山田陽子の場合,キャラクターが勝手に動くこともある。
- 執筆時間は?:ものすごく時間がかかります。体力がないので徹夜などはできません。
- スランプ対策は?:編集担当の人に「逃げ切り計算機」というサイトを教えてもらった。仕事を今リタイアした場合どうなるかが分かるもの。その結果,もう少し働かないといけないことが分かり,頑張ることになる。
10 今後について
- 年末に『カーテンコール』が新潮社から発売される。
- 未来をテーマにした作品を書いてみたい。
11 本の紹介
■自作で好きな3冊
シリーズもののヒロインに心が行ってしまいます
『ななつのこ』『ささらさや』『七人の敵がいる』
ちなみに聞き手の方のお薦めの3冊は...
『ささらさや』『いちばん初めにあった海』『掌(て)の中の小鳥』
#毎回,こういうコーナーがあるのが,初心者にはありがたいですね。
■お薦めの日本のミステリー作品
今年の鮎川哲也賞受賞作品『屍人荘の殺人』
■若い人に読んで欲しい作品
- ミステリーを離れた青春ものとして書いた『少年少女飛行倶楽部』。
- 最後どうやって飛ぶか,お楽しみに
- アニメ化を期待していますが...声がありません。
■反響が大きかった作品
- PTAが舞台の『七人の敵がいる』
- 親側の不平不満を描いたもので,ミステリー読者以外からの反響が大きかった作品
12 フロアからの質問
Q1 連載後,単行本にする時,加筆・修正をしますか?
A1 書き切れなかった場合を除いて,あまりしない。
Q2 短編用の文体のポイントは?
A2 まだ長編をほとんど書いていないので試行錯誤中である。だから時間がかかる。
加納さんは「これまでほとんど講演会を引き受けたことはない」とのことでしたが,この日は,一貫して優しい雰囲気でお話をさせれいたので,聞いている方も思わずそのペースに引き込まれました。
トークショーの後は,恒例のサイン会が行われました。私も持参した『ななつのこ』にサインをしていただきました。まず,この本を読んだ後,しっかりと泣けそうな『ささらさや』あたりを読んでみたいと思います。
トークショーの後は,市内の公園などを散策。小雨が降っていましたが,紅葉の最盛期という感じでした。
県立図書館の隣の建物。きれいですが落ち葉は多過ぎで滑りそう? |
上の写真と同様ですが,右が県立図書館です |
金沢21世紀美術館 |
しいのき迎賓館横のアメリカ楓通り付近 |
アメリカ楓通り。明日11月5日は歩行者天国になるようです |
縦長で撮影 |
舗道の上のもみじ |
明日は晴れそうなので,このイベントで賑わいそうです。 |
良く見ると紅葉の色も色々です。 |