2017年10月9日月曜日

#安田登 脚色・演出・出演による #泉鏡花 原作 #天守物語 公演を #21美 で観てきました。能の序破急の構成の中にダンス,ラップなど多様式が盛り込まれた刺激的な公演でした

今年は,金沢出身の作家,泉鏡花の代表作『天守物語』が作られて100年目の年です。さらには,5年に1回行われている「金沢泉鏡花フェスティバル」の年にも当たります。この両方の意味を込める形で,能楽師の安田登さんを中心とした,舞台『天守物語』が金沢21世紀美術館のシアター21で上演されました。この公演は2日連続で行われたのですが,私は初日(10月8日夜)の方を観てきました。

まずは会場の雰囲気などを紹介しましょう。
21美の外のポスターコーナーです。

夜の21美。野外では「月見光路」のイベントをやっていました。

シアター21への階段前の案内

18:30開場に合わせて行ったら,既に長い列ができていました。
若いお客さんが多かったのが嬉しかったですね。

ホール前のポスター
『天守物語』は,姫路城の天守閣の最上階を舞台とした,妖怪の世界のお姫様(富姫)と播州藩の侍,姫川図書之助との恋愛がメインのストーリーです。ただし,ドラマの前半には,図書之助は登場せず,猪苗代からわざわざ「毬つき」のためにやって来た,富姫の妹分の「亀姫」とそのお付きの妖怪たちの話が中心になります。この日の舞台でも,前半を「妖怪編」,後半を「恋愛編」と位置づけていました。

安田さんの書かれたプログラムの解説によると,今回の上演では,前半と後半それぞれに,能の基本的な構成である,「序破急」をあてはめて演出・脚色行ったとのことです。いわば,連続ドラマを2本続けて観るような感じになりました。

もう一つの特徴は,安田さんの本職である,能をベースとしつつ,狂言,ダンス,ラップ,人形劇など,いろいろな様式のパフォーマンスを取り入れていた点です。主役の富姫については,仮面を付けた等身大の人形を文楽のような形で操作し,声は前半は安田さん,後半は,浪曲師の玉川奈々福さんが担当していました。

この主要登場人物を「2人がかりで演じる」というのがとても面白いと思いました。能についても,シテ方,ワキ方が舞う一方で,その演技を背後の人たちが支えるという形になっているので,能の様式に近かったのかもしれません。

中でも面白かったのが,主役の天守夫人・富姫を仮面付きの人形が演じていた点です。能面の場合同様,無表情なはずの面から,その場その場に応じた表情が伝わって来たのがとても面白いと思いました。

その登場の仕方も印象的でした,劇がスタートした後,侍女たちのやり取りが続いた後,満を持して,舞台正面奥の扉が左右に開いて,スポットライトが当たる中,スーッと華やかに登場しました。こういう人間離れした感じを表現するには,今回のようなスタイルはぴったりだと思いました。

前半は,もう一人のお姫様・亀姫との対比が見所になります。こちらの方は,赤い着物を着たリアルな役者さんが演じていました。歌舞伎で言うところの「赤姫」になります。実在する若い女性のイメージを出していましたが,声の方は,浪曲師の玉川奈々福さんが担当していましたので,どこか文楽的に通じる気分があると思いました。

前半では,富姫のお付きの「妖怪」たちの動きも見ものです。それぞれに見せ場がありました。「朱の盤坊」には,狂言の雰囲気がありました。奥津健太郎さんの豪快な声が雰囲気にぴったりでしたが,役者の方はかなり若い人が演じており,こちらについては,例えば,荒事的なメイクをする方が良いのではと思いました(個人的に,映画版『天守物語』の市川左團次のようなイメージを持っていたからです)。

一方,富姫への「お土産」の生首を「むさや,むさや」と言って舐める「下長姥」の方については,「これは斬新だ」と思いました。こちらも白髪の鬘を被った若い人が演じていましたが,この鬘自体が結構ファッショナブルでした。動作自体もダンスのようになっており,見ていてその流れの良さや格好良さに引き込まれました。

前半の最後の方(序破急で言うところの「急」でしょうか?)については,この下長姥を含む,大小妖怪たちによるダンス・パフォーマンス+ラップになります。「とうりゃんせ」のメロディをベースに,強いビートを加え,歌詞を縦書きにして,舞台奥に投影する中,歌ったり踊ったりという世界が続きました。床の上でクルクル回る...名前が出てきませんが映画「フラッシュダンス」(古くてすみません)に出てくる...ダンスが出てきたリ,激しく盛り上がりました。

残念だったのは,お客さんのリアクションの方でしょうか。こういう世界が広がるのを予測できていなかったのが,ややおとなし過ぎると感じました。それと,原作では,姫2人で「毬つき」をするはずなので,これも見たかったですね。

それと,「このダンサーたちは何者?」「この子供たちは?」ということが結構気になりました。ダンサーについては,ただものではなく,子供たちについては地元の子どもかな,ということは分かったのですが,プログラムの方にもう少し説明があると嬉しいなと思いました。

前半については,能・狂言的な雰囲気と現代的なダンスやラップとの違和感のないコラボレーションに驚くと同時に感心しました。今回の音楽はヲノサトルさん(シンセサイザー?)+上野賢治さんのフルート各種,森山雅之さんによる打楽器各種の組み合わせで,絶大な効果を上げていました。能の鳴り物を現代的に拡大するとこうなるのかと感激しました。
開演前の写真です。鮮明ではありませんが,左側が打楽器とフルート。右側がシンセサイザー。
その前の床で演じ,語っていましたので,かなり狭い場所だったと思います。
ヲノさんの音楽はプログラミングされたものだったと思いますが,そのクリアな世界に上野さんと森山さんによる,かなり即興的な要素も含んだ生のパフォーマンスが絡みあうことで,ただのBGMに終わらない立体感のある雰囲気を出していました。

上野さんと森山さんは,カホンという箱型の打楽器も使っていたと思うのですが,これは中々重宝する楽器だなと思いました(椅子としても使えそうなので,一家に一台あっても良いかも)。生演奏付きだったことで,一種オペラ的な総合芸術というムードのある聞きごたえ・見ごたえを作っていると思いました。

後半は図書之助が登場します。この役については,前半で朱の盤坊の声を担当していた奥津さんが2枚目役になり,声を安田さんが担当していました。

この図書之助と富姫のやり取りが続き,前半とは違い,どこか落ち着いた大人のムードになりました。8月前半に行われた安田さんと玉川さんによる「朗読会」のムードに演技が付いた感じです。ここでも富姫の仮面が非常に魅力的に感じました。

終盤では,城主側の追ってとのやり取りが見所になります。この辺の雰囲気については,前半よりはやや大人しい気がしましたが,城主側と妖怪側の戦いというのは,象徴的だな,といつも感じます。自由さを求めるアーティストたちと地域住民の多様なニーズに応える必要のある行政側の争いに似ている気がします。21世紀美術館についても同様なバトルがあるのかもしれませんね(勝手な想像です)。

ドラマの最後では,妖怪の世界の象徴的な存在である獅子頭の目が突かれてしまったため,みんな失明してしまいます。最後の最後にこの獅子頭の作者である工人桃六が登場して目を復活させます。

この部分は,ドラマ全体のいちばんの見所だと思うのですが,演出的にやや地味だと思いました。桃六については,舞台の下手側からすっと登場してきていましたが,前半の富姫の登場の時に対応するような形で,もう少しドラマティックに超人的な力を暗示させて欲しいなと思いました。

前述の朗読会の時は,安田さんの声の力で「大満足」という感じになり,今回の東雅夫さんの声も素晴らしかったので,全体を朗読で再現する場合と演劇として再現する場合とで少し違った手法が必要なのではと思いました。

東さんは前半の最初の部分で,「泉鏡花」役として芸者役の玉川さんと一緒に全体のあらすじを演技を交えて説明をされていたので,それと対応させる形で,ドラマ全体の創造主が再登場するようなイメージにしても面白いかもと勝手に想像を広げてしまいました。

最後は,前半に登場した亀姫,下長姥なども再登場し,全員によるダンスになっていました。妖怪の世界の再興を祝うような感じの楽しいカーテンコールになっていましたが,ドラマ自体の「結末」が実はよく分からず,いつの間にか終わったという感じだった気がしました。この辺の締め方が難しいなと思いました。

というわけで,今回が初演ということで,もう少し改訂していくと良い部分があった気がしましたが,色々な様式を組み込みつつ,能の枠にまとめ,さらには原作にも忠実ということで大変面白い舞台だったと思いました。何よりも各役者さんが,その本職の仕事をきっちりしながら,全体としてまとまっていたというのが,素晴らしいと感じました。



この日は美術館~しいのき迎賓館周辺で「月見光路」のイベントをやっていたので,ついでに雰囲気を紹介しましょう。

しいのき迎賓館の前です。


終演後です。建物の上の○は...よく分からないと思いますが...丸い月です



鏡花の世界をイメージさせる照明,といった企画があっても面白そうですね。