2017年8月5日土曜日

朗読会「能楽師×浪曲師による泉鏡花『天守物語』」を金沢能楽美術館で聞いてきました。安田登さん,玉川奈々福さんの迫力のある生声と映像美をしっかり味わいました。本公演も楽しみ

今年は,金沢出身の文豪・泉鏡花の代表作『天守物語』が書かれて100年目です。それを記念して,10月8日と9日に金沢21世紀美術館のシアター21で『天守物語』が上演されます。その演出を担当する,能楽師・安田登さんと浪曲師・玉川奈々福さんによる朗読会が,その関連企画として金沢能楽美術館で行われたので聞いてきました。
数年前,オペラ版の『天守物語』を観て以来,この作品の妖しさと激しさが合体したような世界が好きになり,10月の公演も観に行こうと思っています。とはいえ,『天守物語』は(鏡花作品はみんなそうですが),やはり言葉が難しいので,今回の朗読会は,予習のつもりで聞きにいきました。

今回は朗読会ということでしたが,通常の朗読とは違い,金沢出身の映像作家・モリ川ヒロトーさんによるプロジェクションマッピングのような映像が全編にわたり背景に投影され,要所で音楽も入っていました。そして,安田さんと玉川さんが2人で分担する形で朗読を行いました。

鏡花のオリジナルの脚本を全部読んだわけではなく,一部カットしていましたが,お2人の素晴らしい声による朗読で,『天守物語』の世界が生き生きと伝わってきました。言葉はよく分からなくても,声を聞いているのが気持ちよく感じる部分もありました。

安田さんの話によると,能楽の基本構成である「序・破・急」を,この作品に当てはめるのに苦心をしたとのことです。『天守物語』については,「序・破・急」の構成は当てはめにくいので,前編(化け物編)と後編(恋愛編)に分け,それぞれに「序・破・急」を当てはめる演出にしたとのことです。今回の朗読もそのことを反映しており,前編は主役・富姫を安田さんが能の発声で担当,後編は玉川さんが担当ということで,様式的には,2つの作品の朗読を聞いたようなイメージとなっていました。その点がまず面白いと思いました。

安田さんの声は,間近で聞くと腹に響くような迫力があり,ピリッと空気が締まるようでした。玉川さんの方は,浪曲師ということで,色々なキャラクターを声色で描き分けていました。声優のような感じだなぁと思いました。玉川さんの声も大変クリアで聞きやすく,後編の富姫からは,気風の良さのようなものを感じました。

前編の化け物編の方は,やはり朗読だけだと分かりにくい面はあったのですが,この辺は本番でどう表現されるのか期待したいと思います。ちなみに,安田さんのお話によると,色々なパフォーマンスを合体した「何でもあり」の妖怪の世界になるようです。

本日は,『天守物語』の朗読に先立ち,夏目漱石の『夢十夜』の中の第3夜の朗読も行われました。漱石は能の勉強をしており,後期の作品を解釈するには謡の知識が不可欠とのことでした。今回は,朗読というよりは,安田さん自身,本物の能のように立ち上がって演技をしながら語っていましたので,漱石原作による能を観るようでした。玉川さんは三味線で伴奏をしていましたが,これも大変味わい深いものでした。

『夢十夜』の第3夜は,目の見えない6歳の息子を背負っているうちに重~くなってきて...という展開で,夏の夜に相応しい怪談的な要素もありました。パフォーマンスの完成度としては,こちらの方が上だと思いした。

『天守物語』の方は,オペラをピアノ伴奏による演奏会形式で聞くといったイメージがありました。その分,セリフに集中できたのは,とても良かったと思いました。そして,前述のとおり,お2人の声の魅力が素晴らしいと思いました。今回の鑑賞については,能楽美術館の入館料(300円)だけで済んでしまったのですが,大変密度の高い時間を過ごすことができました。10月の本公演にも期待したいと思います。
3階の研修室で行われました。初めて入る部屋でした。


今回,久しぶりに能楽美術館に入りました。波津彬子さんによる本公演のポスターも大々的に飾られていました。これは目立ちますね。
美術館の展示の方は「水辺の能楽:水紋の美」というテーマでした。能の衣装のデザインは,「何か」を象徴しているのですが,それを理解しておくと,より深く楽しめるのでは,と思いました。




能面の表情や動作の「型」は,現代の常生活でも使えそう?
本日は,能楽美術館以外にも,金沢21世紀美術館で始まった新しい展覧会も観て来たのですが,こちらについては別途紹介したいと思います。