2017年4月9日日曜日

対談 佐渡島庸平・八谷和彦:ぼくらの作品の届けかた。(コルクとペットワークスの場合)を聞いてきました。「ファンのマネージメント」「好きを熱狂にする」は色々な組織の活性化にも応用できそう #sady講演

「自治区」というシリーズ
の関連イベント
でした。
昨日とは違い本日の金沢は,やや肌寒い一日になったのですが(夕方には小雨),「来週になると完全に桜は散っているかな?」と思い,本日も広坂周辺に花見を兼ねて出かけてきました。

本日の主目的は,元講談社の編集者で現在は株式会社コルク代表取締役の佐渡島庸平さんと発明系アーティストで東京芸術大学准教授の八谷和彦さんによる「ぼくらの作品の届けかた。」と題した対談を聞きに行くことでした。

個人的に,情報の伝達がWeb中心になっていく中,どうやってビジネスとしてのアートを成り立たせるか,といったことに関心を持っていたので,タイトルに引かれて参加してきました。会場は,21美のチケット売り場のすぐ後ろのガラス張りのレクチャーホールでした。

会場から外を見たところです。
対談の中でいちばん印象に残ったのは,佐渡島さんがおっしゃっていた「ファンのマネージメント」と「好きを熱狂にする」というコルク目標となっているフレーズでした。この2つは,例えば,私が支援しているオーケストラ・アンサンブル金沢のファン拡大などにも応用できるのでは?などと思いました。
イベントの前に出ていたスライドです。
今回もメモを取りながら聞いてきましたので,私の感想(#)などを交えながら紹介しましょう。以下の見出しは私が付けたもので,発言順もこのとおりではありません。

また,以下の発言の大半は,佐渡島さんが語っていたものです。正直なところ,八谷さんの会社でやっている「ポストペット」や「風の谷のナウシカ」に出てくる飛行機メーヴェを実際に作ってみる,といった話題にはあまり関心がなかったのでメモを取っていませんでした(すみません)。

1 売るために必要なこと

  • 作品は作り手だけでは世の中には出ない。しかしアーティストは営業が苦手である。
  • アーティストの役割は,0を0.5にするぐらいで,売るためには,それ以外の力が必要(例として,展覧会開催についての百貨店や新聞社の力を上げていました)。
  • 物を売れるかどうかは,エンド・ユーザーと直に結びついている量がポイント。例えば,自動販売機の数が多いのでコカ・コーラは売れる,セブンイレブンは店舗数が多い,新聞も多くの読者を持っている...。
  • コルクのミッションは「心に届ける」(上記のスライド)である,インターネットは,顧客と直接つながるメディアであり,届いたかどうかが分かるメディアである。
  • ちなみに,コルクというネーミングは,ワインでやっているようなことをコンテンツでもやってみたいという発想とのことです。

2 コミュニティのマネージメント

  • 「コミュニティのマネージメント」が,「コルクの仕事」の一つである。ファンと作家が一体になったコミュニティができ,好きが熱狂に変わると,人気は持続する。
  • 日常生活の中の話題だと話すことは限られているが,「好きなこと」だと共通の話題となり,日常生活ではありえないほど,ファンの間では大きく盛り上がる。そのことに人は感動する。
  • 「好きを熱狂にする」に関しては,「水を差されると覚める」ことにも注意すべき。コルクでは,コルクラボというクローズドなグループを作って,頻繁にやり取りをしている。そういう特別な場所の方が相応しいことがある。
  • (八谷さんの発言)売ろうとする「あざとさ」のようなものが見えると「引く」人もいる。プロジェクトの中の「失敗」を見せるなど,「さらけ出す」ことでファンが付く。しかし,それは興味を持っている相手(聞く準備のある人)にしか通じない。どうすればファンが増えるかについての戦略が必要。
  • 「ファンの熱狂」については,偶然の要素も大きい。しっかり出来過ぎていると熱狂は起こらないものである。

3 エンジニアリングがこれからは重要

  • これからは(コンテンツを売る仕事についてだと思います),エンジニアリングについての知識が不可欠
  • 従来の小説は,読者が読んだ後,頭の中で再現することで感動を得るものだったが,例えば,日常とリンクさせる技術と絡ませると(この辺はかなり省略して書いています...),もっと感動するのでは? #このことについては,個人的には,「小説は日常と全く別世界だから良い」という気もしました。
最後に,会場からの質問に答えるコーナーがありました。こちらも面白い内容でした。

Q1 エージェントというのはどういう仕事?

  • 作家をどう売るかを考えること。
  • 近年,作家は寿命が短くなりがち。「今,何をやることが大切か」を一緒に考えて設計していくこと
  • マネージャーとは違う

Q2 コルクのミッションなどはどう決めた?

  • 社員の話し合いの後,電通や博報堂の人やクリエーターの人たち(佐渡島さんの個人的なつながりとのことです)のアイデアを加え,それをさらに社員に戻して決めた。# 21世紀美術館でやるとしたら...という話題も出ていましたが,「言語化のセンス」いうのは重要なのだなと思いました。

Q3 紙メディアの将来
(八谷さん)
マンガはiPadで読むのが普通になっている。でも買いたいことはある。ちゃんとお金を払ってくれる人は必要

(佐渡島さん)

  • 人間の身体がなくならないのと同様,紙はなくならないだろう。リアルなものの力は増してきている。
  • どうビジネス化するかが問題。「納得感」があれば買うはず。価値の分かる人ならば,多少高くても買う(例:佐渡島さんの仕事の関係で,シングルCD 限定1500枚 2000円でも売れた実績あり)。
  • 最近はコンテンツの量が膨大になっている。その場合,面白くないものを有料で買いたくはないので,「まず無料でお試し」というシステムが普通になっている。
  • インターネットについては,「発見すること」がいちばん難しいという状態になっている。そのこともあり,紙媒体の本の出版点数は,ものすごく増えている。
  • キュレーション・サイトやSNSはそのためにも重要である

Q4 自分の趣味を他人に知られることに怖さがある。これをどう克服すべきか?
# この質問については,自分のプライバシーを公開することの怖さなのかな?と個人的には思ったのですが,「アーティストとして表現することの怖さ」について回答されているようでした。

(八谷さん)健全な感覚。そのままで良いのでは。

(佐渡島さん)他人に影響を与えることについて怖さがあるのは当然である。また,生きている限り,必ず他人に影響を与えるものである。すごく真剣に考え続けることは大切である。

というような感じのお話でした。このところ,個人的に考えていることとつながる話題が多く,とても参考になりました。

上に書いた話につながるのですが,日常生活の中で他人とつながる機会のない人(もしかしたら,生きがいを持てていないような人)が,「共通の好きなもの」を中心にコミュニティを作るということが,これからの社会では,いろいろな意味で重要になってくるのだと思いました。そのために,どうインターネットを活用するかがポイントになりますね。インターネットについては,「自分の好きなものばかりを過大評価してしまう」というデメリットもあるので,ある程度,現実世界の「常識」「権威」などとも折り合い付けることも必要がある気がします。ネットを活用したアートに関するビジネスには難しい点も多いと思うのですが,今後,ますます重要になってくる課題だと思います。

八谷さんが搭乗した,「ナウシカの飛行機」の展示も見てきました。