金沢三文豪に関連する映画を集中的に上演する「三文豪映画祭」がシネモンドで始まりました。本日は,泉鏡花原作,坂東玉三郎監督・主演の『天守物語』を観てきました。『天守物語』については,数年前,オペラ版を観たことがあるのですが,映画版を観るのは初めてです。
この作品は99年前に書かれた戯曲です。現在,泉鏡花記念館では『天守物語』に関連する展示を行っているので,それにちなんでの上映ということになります。
この作品については,鏡花作品を積極的に取り上げている坂東玉三郎が俳優として出演するだけではなく,監督もしている点がいちばんのポイントでしょう。原作をしっかり読んでいないので何とも言えないのですが,原作の戯曲のシナリオをほぼそのまま使っているような感じでした。文語的なセリフも多いので,意味の分かり辛い部分が多かったのですが,何よりもセリフの連なり方が心地よく,画面全体に溢れる艶やかな雰囲気と合わせて,現世とは違う妖怪が集まる別世界へと誘ってくれるようでした。
ドラマは,戦国時代の姫路城が舞台で,争いが続く「地上」と,青獅子頭を中心とした姫路城の最上階にある「天上の世界」とが対比されます。この天上の世界の方は,奥女中や禿たちが集まって,優雅に天守閣から「釣り」などをしています。
前半は,この優雅な天上世界に暮らす玉三郎演じる富姫のところに,会津から亀姫が訪ねてくるという場面です。玉三郎のリンとした存在感も素晴らしかったのですが,それを取り囲む朱の盤坊(市川左団次の豪快なキャラクターにぴったり)や舌長姥(玉三郎がこの役も兼ねていました)など,コミカルさと怪しさを持った脇役も存在感を発揮していました。
舌長姥が「富姫へのお土産に持ってきた生首から滴る血を舐める」というシーンがありましたが,この辺は時代的にもオスカー・ワイルドの「サロメ」と重なるような雰囲気があると思いました。この役をやりたかった(?)ので玉三郎が二役をやっていたのかもしれません。非常に気味悪いシーンでした。
亀姫役は,いわゆる「赤姫」ということで,まだ初々しさの残る宮沢りえが演じていました。他の「渋い脇役たち」に比べると,どこか浮いている感じはありましたが,その天真爛漫さは,役柄にぴったりだったと思います。
ドラマの後半は,天上と地上とのバランスが崩れる中,富姫と相手役の図書之助との「非常時での恋愛」が中心となります。図書之助役は宍戸開が演じていましたが,見事な二枚目ぶりを発揮していました。
ドラマの構成としては,青獅子頭の作者である工人,桃六が最後の最後に登場し,獅子頭を修復することで,巧く収まるという形になっていました。映画の最初の部分でも桃六を登場させていたので(これは,明らかに原作とは違う部分です),ドラマ全体が桃六の掌の上で起こった出来事とも言える感じになっていました。この重要な役をベテラン俳優の島田正吾が演じていました。最後,高らかに笑って終わる辺り,水戸黄門が印籠を出して,すべてが丸く収まるようなところがあり,理屈とは一味違った,「収まりの良さ」を感じさせてくれました。
玉三郎さんは,泉鏡花を大変尊敬している方ですので,鏡花の意図をなるべく忠実に再現しようという気持ちが随所に感じられました。上述のとおり,セリフが分かりにくいという点はあったのですが,そういった部分を含め,鏡花の世界を味わうための「入門」にはぴったりの映画では,と思いました。