このところ,自宅でも仕事関係の本しか読む暇がなかったのですが,クリスマスということで,読みたかったこの本を一気に読んでみました。大変面白い本でした。
小澤征爾さんと村上春樹さんと言えば,世界的に有名な日本人のベスト1,2でしょう(どちらが有名?やはり小澤さん?)。その2人の対談を本にまとめたものです。対談は,村上さんが小澤さんに対して,かなりマニアックなクラシック音楽の演奏にまつわる話題を質問しながら進んでいきます。
その内容が大変充実しています。その理由は,村上さんの持っているクラシック音楽についての知識の豊富さ,感性の鋭さ,質問の巧さに尽きると思います。小澤さんに対する尊敬の念が基盤にあり,あくまで小澤さんを立てているのですが,小澤さん自身が驚くほど,いろいろなことを小澤さんから引き出しています。さすが村上さんです。
読んでいるうちに,小澤さんのCDを聞いてみたくなります。若い頃に録音した「春の祭典」,サイトウ・キネン・オーケストラとのブラームスの交響曲第1番の最新録音,ボストン交響楽団との完成度の高い録音の数々...これまで小澤さんのCDについては,いま一つ面白みがないかな,と感じていたのですが,ちょっと聞き方が変わりそうです。
最後の方には,ジュリアード弦楽四重奏団の元第1ヴァイオリン奏者,ロバート・マン氏による室内楽講習会の話題が出てきます。この部分を読んでいると,ジュリアード弦楽四重奏団のCDも聞いてみたくなります。
この本は,対談という形にはなっていますが,村上さんが中心となってまとめたものだと思います。非常に読みやすく,小澤さんの声が聞こえてきそうな生き生きとした流れの良さがあります。村上さんの文体には,すっきりとした緻密さがありますが,もしかしたら,村上さん自身,若い頃よく聞いていたというジュリアード弦楽四重奏団の演奏に通じるスタイルと言えるのかもしれません。
グールドとバーンスタイン,グールドとカラヤン,内田光子とザンデルリンク...によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の聞き比べも追体験してみたくなります。村上さんは小説「1Q84」でクラシック音楽を沢山引用して話題になりましたが,それも納得という感じの作品です。
村上春樹さんの文章については,今後も目が離せないですね。
新潮社のサイトにこの本の目次などが載っていましたので,ご覧ください。
http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/353428/