2011年10月23日日曜日

古井由吉氏の講演会を聞いてきました。秋声と読書についての含蓄のある言葉を聞くことができました。

今日の午後,金沢市立泉野図書館で作家・古井由吉さんの講演会が行われたので聞いてきました。

古井さんは,1960年代前半に金沢大学で助手を勤めた後,立教大学に移り,その後,作家として活躍されている方です。1970年に「杳子」で芥川賞を受賞されていますので,「金沢ゆかりの有名作家」ということなのですが,実は,全く作品を読んだことがありません。

今回の講演のテーマは,「秋声と私」で,徳田秋声記念館が中心となって企画したイベントでした。が,秋声の作品の方も全く読んだことがありません。今回の講演会で,この両作家の作品に親しむきっかけになれば良いかなと思い出かけてきました。

内容は,古井さんが金沢に居た時代,つまり,昭和38年の豪雪の頃の雪かきのエピソードから始まった後,徳田秋声の話に移りました。その代表作「黴(かび)」という作品に出てくる,主人公夫妻の「婚姻と所帯」の話が中心テーマでした。古井さんも秋声も,金沢から東京に移ったという点で共通点があり,古井さん自身,秋声の描写力に特に引かれていることが伝わってきました。明治時代の婚姻関係については,現代とはかなり違った感覚であることも,よくわかりました。

古井さんは,大変ゆったりと語られていました。ベテラン作家の風格十分でしたが,予定の1時間ぴったりでお話をまとめていたのはさすがでした。秋声も古井さんも,「渋い作家」なのですが,古井さんの言葉で「秋声はちょっとした言葉で描写するのが巧い」と言われると,ついつい読んでみたくなります。秋声の場合,青空文庫で主要作品は読めてしまうので,金沢が出てくるような作品からちょっと読んでみようと思っています。古井さんの作品については ,豪雪時の様子を描いた「雪の下の蟹」という作品を,まずは読んでみたいと思います。

古井さんが最後に言っていた言葉も印象的でした。読書について次のようなことをおっしゃられていました。

作品を読んで深い感銘を受けても一度は忘れないといけない。忘れるというのは,記憶の底に沈めることである。数年後にふっとよみがえり,2度目に読んだ時には,読み方が深くなっている。

私自身,物事を忘れることは,単純に「悪いこと」と思っていたのですが,「忘れなければ生きていけない。もう一度出てきた時に深くなっているからそれで良いのである」という古井さんの言葉を聞いて,気が 楽になった気がします。このことを聞いただけでも来たかいがあったな,と思った講演会でした。