2017年11月18日土曜日

11/16 #金沢泉鏡花フェスティバル で #泉鏡花の『#外科室』を翻案した戯曲『#世界はあなたの物』を金沢市民芸術村で鑑賞。原作とは全然違う雰囲気でしたが,セリフ・映像・ダンス・音楽がしっかりまとまった迫力ある公演

金沢出身の文豪,泉鏡花にちなんで,金沢市は「泉鏡花文学賞」という文学賞を制定しています。その歴史もかなり長くなります。1992年からはさらに「金沢泉鏡花フェスティバル」を5年ごとに開催しています。今年はその当たり年ということで,11月15日から19日にかけて,金沢市民芸術村で色々なイベントが行われています。

11月16日の夜は,第5回泉鏡花記念金沢戯曲大賞を受賞した佐々木透さんの脚本による「世界はあなたの物」が上演されたので観てきました。上演日はいくつかあったのですが,夜8時から観るというのも良いかなと思い,木曜日の夜の公演を観ることにしました。
フェスティバルの看板。夜見ると結構不気味かも
PIT2の入口前のポスター

この作品は,泉鏡花の短編『外科室』を近未来の2020年に時代を置き換えた作品です。この『外科室』を素材にしていたことも今回観に行こうとおもった理由の一つです。『外科室』といえば,坂東玉三郎監督で吉永小百合が主役を演じた映画版を思い出します。ラフマニノフのチェロ・ソナタの緩徐楽章に乗って,耽美的な雰囲気を感じさせる美しい映像が続くような独特の作品で,1時間かからない短い映画にも関わらず,たっぷりと満足感を味わうことができました。

今回の戯曲は,その雰囲気とは全く違い,白を基調としたすっきりとした雰囲気の中に現代のちょっとギスギスとした人間関係が象徴的に表現されているような雰囲気がありました。美しい女性を若い医者が手術するという設定と医者と女性との間に一期一会的な恋愛感情が起こるという設定は共通でしたが,それ以外は全く違う作りの作品で,鏡花の短編からよく色々なイマジネーションが広がるなぁと感心しました。
舞台の雰囲気はこんな感じでした(開演前です)
特徴は次のような点でした。(1)映像を多用していたこと,(2)ダンスシーンが多かったこと,(3)フルートの生演奏を使っていたこと,(4)貨幣に翻弄される現代社会の姿を表現していたこと

(1)については,舞台の雰囲気全体が白かったので,その白い面に色々な映像が投影されていました。例えば,作品が始まった後,タイトルや役者の名前などが表示されていました。かなり映画に近い要素もあると思いました。

(2)のダンスシーンについては,主に5人の看護師たちが担当していました。開演前,ステージ奥に看護師たちが静かに座っていたのですが,作品が始まると,全身を使ったいろいろな動きを見せてくれました。その「意味」は正直なところよく分からなかったのですが,(1)のクールな雰囲気と合わせ,日常とは少し違う異次元空間の気分を盛り上げてくれました。

(3)については,10月に観た,同じ鏡花原作の『天守物語』の公演を思い出しました。この時同様、上野賢治さんがフルートを担当されていました。公演後のアフタートークによると,ピアノの音(これは事前に録音されたものだったのでしょうか?)に合わせ,即興的に演奏をされていたようで,息の音の生々しさとスリリングさが感じられました。ドラマ全体のホットなのかクールなのか分からないようなムードにぴったり合っていたと感じました。

(4)については,アフタートークで,演出の高田伸一さんの説明があったから理解できたものです。途中から「カードのようなもの」を小道具として多用していたのですが,お金に翻弄されている現代を表現するためのメタファーとして使っていたとのことです。ドラマのクライマックスでは,このカードを外科手術用のメスに見立てるなど,「ダブルミーニング」にすることも意図したいたとのことです。

説明を聞かないと分からない部分もあったのですが,登場人物たちが,みんないらいらと不機嫌な感じだったのも,この「お金に翻弄されている」ということとつながるのかなと感じました。

ドラマの基本構造としては,「愛のない,金目当てのような結婚」をしている舞子夫人と外科医との恋愛ということになります。外科医の方は,最初から最後まで不機嫌な感じで,その理由が実はよく分かりませんでした。この作品については,脚本が公開されていますので,後で読んでみようかなと思います。

http://kyokafes2017.com/wp-content/themes/kyokafes2017/common/images/top/sekai.pdf

原作の『外科室』は,9年前の一目ぼれが手術を通じて成就する話ですが,今回の戯曲については,2020年の9年前の2011年,つまり東日本大震災,が隠しテーマになっていました。が、この辺がやはり一回観ただけだとよく分かりませんでした。この日は、仕事が終わった後,夕食を食べずに20:00から観ることになったので,「体力の限界」という感じになってしまい,途中,少しウトウトしてしまいました。そのせいかもしれません。

というわけで,作品に込められたメッセージについては,トークを聞かないとしっかりと理解できなかったのですが,迫力のあるセリフの連なりに映像・ダンス・音楽がライブ感覚で加わり,リアルな「まとまり」と「迫力」がしっかりと感じられたのが素晴らしいと思いました。

アフタートークの時にもちょっと話題になったのですが,芸術村のすぐ上(斜め上ぐらいでしょうか)を通っているJR北陸本線のガタンゴトンというSEがとても面白い感じで加わるなど,ライブ感満載の芸術村のPit2ならではの上演だったと思います。役者の息遣いが間近で感じられるこの空間がとても好きになりました。

上述のとおり,かなり疲れた状態で観ることになったのが残念だったのですが,機会があれば,今回チラシが入っていたような色々な演劇も観てみたいものだと思いました。

この日のアンケートは、「鑑賞前」「鑑賞後」について尋ねる独特のスタイルでした。
PIT2全体を診察室に見立てており、座席の位置を示すカードが「診察券」になっていました。