2015年2月8日日曜日

没後400年記念「高山右近とその時代」を石川県立美術館で観てきました。美術館というよりは博物館という感じの展示でした。

1月12日に石川県立美術館で展覧会「高山右近とその時代」の関連イベントとして行われたチェンバロによるレクチャー・コンサートを聞いてきましたが,肝心の展覧会の方は観ていませんでしたので,展覧会の最終日の本日観てきました。


そもそもこの展覧会に関心を持ったのは,キリシタン大名だったため,領地を没収され加賀藩に迎えられ,晩年にはマニラに追放されたという高山右近の人生に興味を持ったからです。戦国大名の「普通」の人生とは全く違う生き方です。当時の一般的な「出世」とは違った部分に人生の意味を見出していた点で,現代人に通じる感覚を持っていたのではないか?そんな気がします。

ただし,正直なところ,やや期待外れでした。第1展示室では,右近に関する展示物が並んでいましたが,美術品としてのインパクトはそれほどではありませんでした。第2展示室には当時の南蛮文化の影響を示す,南蛮屏風が数枚飾られており,当時の雰囲気に触れることができましたが,こちらの方は右近とのつながりがあまり感じられませんでした。

最後の第3展示室には,金沢に残されている右近ゆかりの品の展示がありました。個人的には,これがいちばん面白いと思いました。右近の娘が持っていた品であるとか,観音像とマリア像が合わさったような像とか,独特の雰囲気がありました。

今回は,オーソドックスに展示物+キャプションを並べるという形でしたが,「高山右近の人物を知りたい」というニーズからすると,もう一ひねり(例えば,年表とか当時の金沢市内の地図とか...)欲しいと思いました。というわけで,お隣の石川県歴史博物館向きの企画かなという気もしました。



「高山右近」を観た後は,同じチケットで石川県立美術館所蔵の常設展示もみてきました。美術品としては,やはりこちらの方が見ごたえあると思いました。常設展の方は,「見覚え」のある作品が多く,時々見に行くと,「我が家のコレクション」という感じに思えてきます。この辺が常設展の良さですね。

その後は美術館の裏の階段を下りて,本多町方面へ。町中にしてはかなり急流の用水が流れており,滝になっています。


21世紀美術館にも寄ってみました。こちらではたまたま無料ゾーンでやっていた,「金澤老舗百年展」というのをさっと見てきました。市内の老舗店舗に残っている「古いもの」を格好良く展示したもので,大変賑わっていました。




21美でなくても良いので,金沢市内のどこかで常設的に展示してあっても良いと思いました。

最後に高山右近にちなんで,カトリック金沢教会へ。

外から建物を眺めただけですが,今日行ってみたら,入口付近にあった別の建物が撤去されていたので,石川近代文学館からよく見えるようになりました。こうやってみるとなかなか立派な建物です。


建物の前に高山右近像がありますが,せっかくなので,このことは県立美術館の展示でも触れてあっても良いのでは,と思いました。




このところ平日は精神的に疲れ気味です。気分転換には,休日の午後にウォーキングを兼ねて市内の美術館めぐりをするというのがいちばんです(本日は雨天で寒かったのですが...)。

2015年2月1日日曜日

「オリエント急行殺人事件」の1974年映画版と三谷幸喜版を比較。両者の配役を比較するだけで楽しめます。三谷版の苦心の役名にも味わい深いものがありますす。

今年の正月,フジテレビで三谷幸喜脚本による「オリエント急行殺人事件」を2晩連続で放送していました。その1日目の方は,1974年に作られたシドニー・ルメット監督による映画版をかなり忠実になぞっているということなので,レンタル・ビデオ店でDVDを借りて,土日に見てみました。

ルメット版は,かなり以前にテレビで観た記憶はあるのですが,まさにオールスターキャストで,オリエント急行自体の持つ,インターナショナルでセレブな気分がたっぷりと表現されていました。 リチャード・ロドニー・ベネットによる音楽は,オーケストラをたっぷりと鳴らしたワルツが中心です。これに合わせて蒸気機関車が走るのは,独特の優雅さと高揚感があります。1930年代の雰囲気にもぴったりでした。

実は,NHKで放送していたデヴィッド・スーシェによる「名探偵ポワロ」シリーズの中の「オリエント急行」も借りてみたのですが,こちらの方はやけに暗い内容で(途中で寝てしまった...),しっかりと見ないうちに返却してしまいした。

***以下,ネタにも関係するので,観ていない方は読まない方が良いでしょう。***

今回,ルメット版を観て思ったのは,「12人」に意味があるということです。シドニー・ルメットは,陪審員裁判を描いた舞台を映画化した名作「12人の怒れる男」の監督として知られていますが,「オリエント急行」も,12人の乗客による復讐劇という点で共通する部分があります。映画の中にも,「12」への拘りを感じさせるセリフがあったのた印象的でした。

ちなみに三谷さんも,初期に「12人の優しい日本人」というパロディ風の作品を作っていますね。この作品はとてもよく出来ているので,再演に期待しています。

両作品とも,最後に全員を集めて,ポワロが謎解きをする場面で終わります。このちょっと「水戸黄門」的なパターンと「全員勢揃い」という豪華な雰囲気も良いですね。

配役は,Wikipediaに細かく説明が書かれていたので,それをコピー&ペーストして,両者役名を比較してみました。きっと,三谷さんは,苦心しつつも楽しみながら日本人の名前を考えたのではないかと思います。こういうセンスは大好きです。

●エルキュール・ポアロ 勝呂武尊(すぐろたける)
俳優:アルバート・フィニー →野村萬斎
ベルギー出身の名探偵。オリエント急行で旅行中に殺人事件に巻き込まれる。

ポアロとスグロですね。原作では,ラチェットがポイロと読み間違えるシーンがあるのですが,三谷版でもスグロをスギロと読み間違えていました。エルキュールというのはヘラクレスのことだと思うので,その連想から武尊にしたのかもしれませんね。

●ラチェット・ロバーツ 藤堂修(とうどうおさむ)
俳優:リチャード・ウィドマーク→佐藤浩市
殺人事件の被害者。裕福なアメリカ人。

これは名前のつながりがよく分かりませんでした。

●ヘクター・マックイーン 幕内 平太(まくうち へいた)
俳優:アンソニー・パーキンス→二宮和也
被害者の秘書兼翻訳。アメリカ人青年。

ルメット版の役者は誰だろうと思って観ていたのですが,ピチコックの「サイコ」で有名になったアンソニー・パーキンスでした。幕内平太というのは,苦心のネーミングですね。

●エドワード・ヘンリー・マスターマン 益田悦男(ますだえつお)
俳優:ジョン・ギールグッド→小林隆
被害者の執事。イギリス人。

ルメット版のジョン・ギールグッドは,「いかにも執事」という雰囲気で最高です。

●アーバスノット大佐 能登巌(のといわお)大佐
俳優:ショーン・コネリー→沢村一樹

ショーン・コネリーと沢村一樹は,セクシーな雰囲気(?)が共通点でしょうか。

●メアリー・デベナム 馬場舞子(ばばまいこ)
俳優:ヴァネッサ・レッドグレイヴ→松嶋菜々子
バグダッドで教師をしていたイギリス人女性。

ヴァネッサ・レッドグレイヴは,映画「ジュリア」に出ていた人ですね。メアリー→舞子というのは,結構苦心した感じです。

●ナタリア・ドラゴミノフ公爵夫人 轟侯爵夫人
俳優:ウェンディ・ヒラー→草笛光子
老齢のロシア人貴婦人。

この役は草笛さんしかないという感じです。ドラゴミノフとトドロキというのも,語感の雰囲気がよく合っていますね。

●ヒルデガルド・シュミット 昼出川澄子(ひるでがわすみこ)
俳優:レイチェル・ロバーツ→青木さやか
ドラゴミノフ公爵夫人のメイド。中年のドイツ人女性。

ルメット版を見てみると,既に青木さやかが出ているのかと思ってしまいました(大げさですが)。ルメット版の雰囲気で配役をしたのかもしれません。それいしても,「ひるでがわ・すみこ」という名前には笑ってしまいます。

●ハリエット・ベリンダ・ハッバード夫人 羽鳥夫人
俳優:ローレン・バコール→富司純子
中年のアメリカ人女性。おしゃべり好きで騒がしい。

ローレン・バコールと富司純子の雰囲気もよく似ていると思います。ハバード→羽鳥というのも巧いネーミングですね。

●グレタ・オルソン 呉田(くれた)その子
俳優:イングリッド・バーグマン→八木亜希子
中年のスウェーデン人宣教師。アフリカに伝道するための資金集め旅行から帰ってきたところ。

イングリッド・バーグマンが結構地味な役で出ているのが驚きです。呉田軽穂(=松任谷由実)と同じ発想で付けた感じですね。

●ルドルフ・アンドレニイ伯爵 安藤伯爵
俳優:マイケル・ヨーク→玉木宏
ハンガリーの外交官。

アンドレとくれば安藤しかなさそうです。マイケル・ヨークは,この映画と同じ頃「三銃士」に出て人気があったのではないかと思います。

●エレナ・アンドレニイ伯爵夫人 安藤伯爵夫人
俳優:ジャクリーン・ビセット→杏
アンドレニイ伯爵の若くて美しい夫人。

アンドレニイ,アンドウ,アン と語呂が良いですね。

●サイラス・“ディック”・ハードマン 羽佐間才助(はざまさいすけ)
俳優:コリン・ブレイクリー→池松壮亮
スカウトマンと称するが、実はピンカートン探偵社に勤める探偵。

これは,なかなか巧くつけましたね。池松君は,「新選組!」の続編みたいな番組以来,三谷さんの作品によく出てきますね。

●ジーノ・フォスカレッリ 保土田民雄(ほとだたみお)
俳優:デニス・クイリー→藤本隆宏
シカゴで車販売をしている陽気なイタリア人。

三谷版では,博多出身だったと思います。博多=イタリアでしょうか?

●ピエール・ミシェル車掌 三木武一(みきぶいち)
俳優:ジャン=ピエール・カッセル→西田敏行
フランス人車掌。会社重役のビアンキや一等客室の乗客たちにも顔が知られているベテラン車掌。

「ミ」だけ一致していますね。

●コンスタンティン医師 外科医・須田
俳優:ジョージ・クールリス→笹野高史
ギリシャ人医師。

コンスタンティンの中の「スタ」を使っているんですね。

●ビアンキ 莫(ばく)
俳優:マーティン・バルサム→高橋克実
国際寝台車会社の重役。

ルメット版ではビアンキという名前ですが,原作ではバークとなっているので,原作の名前から付けたのだと思います。

今回の野村萬斎さんの「勝呂」の演技は,和製ポワロとしては最高だったと思うので,是非,日本に舞台を置き換えた別の作品で観てみたいですね。とりあえずは「いろは殺人事件」でしょうか。古畑任三郎も和製コロンボという路線だったので,かなり期待できるのではないかと思います。