2018年11月3日土曜日

#内田樹 さん #安田登 さん #藪克徳 さんによる鼎談「#能と身体」を #金沢能楽美術館で。加賀藩13代藩主前田斉泰『申楽免廃論』を起点にお話しが深く楽しく展開。その後,絶好の好天の下,しいのき緑地の #秋の空 へ。夜は #玉泉院丸庭園 のライトアップ& #21美 の新コレクション展へ

本日は,午後から金沢能楽美術館で行われた,内田樹さん(思想家,武道家),安田登さん(能楽師),藪克徳さん(能楽師)による鼎談「能と身体」を聴いてきました。
この企画は,現在この美術館で開催中の特別展「武家の能と身体:加賀藩十三代藩主前田斉泰ゆかりの能装束と『申楽免廃論』」関連企画として行われたものです。
実は,このところ能に関心があり,石川県立能楽堂で行われている講座などを密かに聞きに行っているのですが,今回の場合,そのこと以上に,内田樹さん,安田登さんという,多数の書籍の著者としても著名な方々のお話を生で聴けるということを目当てに参加してきました。もう一人の藪さんは,このお二方に比べると知名度的には低かったのですが,その受け答えは,とても明快かつ謙虚で,とてもバランスの良い鼎談になっていたと思いました。
会場は能楽美術館の3階でした。
最初に金沢能楽美術館の学芸員の山内さんから,テーマの趣旨説明がありました。鼎談のテーマは,加賀藩13代藩主・前田斉泰(なりやす)が江戸時代末期に書いた『申楽免廃論』という書です。この書物は,前田家歴代藩主の中でも最も多くの自演記録を持つ斉泰の経験に基づいて,能の舞が脚気(かっけ)に効くということなどを説いたものです。この異色の本を読んで,3人のスピーカーの皆さんが感じたことがまず紹介されました。

藪さん
  • 稽古を始めたばかりの幼少の頃,斉泰は「いやいや稽古していた」という記述を読んで,「最初から好きな人だけが続けているわけではない」と感じた。
  • 脚気の原因はビタミンB1不足なので,能の足の運びで直るというのは論理的ではないのでは?
  • ただし,その他の部分の記述は論理的に書いている。
安田さん
  • 斉泰は,現在の「脚気」と違うものを脚気として書いていたのかも知れない。
  • 糖尿病による抹消神経の障害やふくらはぎがつる人には効果があると思われる。
  • 能の舞は,普通の歩き方とは「気合い」が違う。地謡などまわりの情報を受けて,動くスリリングなものであり,武術の勝負に通じるものがある。
内田さん
  • 武道家が能のたとえを使うことは非常に多く,クリシェ(常套句)のようなものである。
  • この書物は,「幽玄」「美」といった,能の本では必ずのように触れられる美意識に全く触れず,「能は健康に良い」とプラクティカルに書いている。その点が異色である。
  • 健康に良いと書いているが,原理主義的でなく,程度問題である(人によって量は違う)と書いている点もユニーク。
  • 自分の身体を見極めることが大切と書いている点は武道的である。身体の自由度を最大化し,どんなことが起きても対応できるという形で動くのが武道だが,演劇も同様だと思う。
  • そういったことを書いている点で,「この人結構できる」と思った。
その後,3人の皆さんから出てきた論点やキーワードを起点としたフリートークになりました。だんだんと斉泰からは結構離れた内容になって行きましたが,含蓄のある言葉が次々と出てきて大変聞き応えがありました。個人的に特に印象に残ったのは次のような点でした。
  • 「おなかの具合が悪いときには,謡が良い」とも書いている点については,藪さんもストレス解消には良いと効果を認めていました。
  • 途中から安田さんはホワイトボードを使って説明。漢字は奥が深いですねぇ
  • 安田さんが,中国古典の『荘子』を引用して,「息を吐く」には,次の3種類の漢字があることを紹介。(あくびのような口で吐く),(「口」の横に「句」,環境依存文字です。「ウ」のように口を閉じて吐く。尼さんがよくやるとのこと),(H音の吐く)。漢字というのは奥が深いものですね。
  • 自身も能の舞台に立ったことのある内田さんの経験談。能の舞台は「ゼリーの中を動くよう」と感じたそうです。微細な抵抗感がある方が,皮膚は敏感に感じるとのこと。
  • ワキ方である安田さんの舞台の上での経験談。長く舞台上で待つことがあるが,最後の方でシテ方が動く時に「風」が起きるそうです。客席からは分からないが,それがとても心地良いとのこと。
  • 内田さんは,来年「橋弁慶」に出演予定。1年前から稽古を積んでいるそうです。藪さんの言葉「稽古を重ねた味」というのは必ずあります。
  • 安田さんによる,プロとアマの違いについての言葉。どちらが上ということは言えない。両方とも漢字にすると「糸」が含まれており,次のような違いがある。
プロ(玄人):「色々な色を染めて黒にする=何でもやれるのがプロ」
アマ(素人):「もともとある色を抜いていき,ピュアなものにしていく。自分の欠点を修正していき,自分らしさをなくそうとしていくのがアマ」
  • これを受けて,「無くしていっても残るのが個性ですね」と藪さんからフォロー。
  • さらにそれを受けて,安田さんから,「尽心」という言葉の説明。「尽=盡」という文字は,「上に乗っているものをきれいにして,それでも残っているもの」を意味する。最後に残ったものを取り出すのが素人の醍醐味である。
  • これらの言葉は,芸事全般に当てはまるのではないかと思いました。
というわけで,「脚気に効きます」という話から,中国古典や,漢字の成り立ちのお話まで,大変幅広い教養に溢れたお話になりました。実は明日,能楽を観る予定にしているので,それがますます楽しみになりました。

鼎談の後,サインをもらっている人がいたので,「もしも」のために持参してきた本にサインをいただきました。どうせならば,昨年発売された,以下のお二人による対談本を買ってくれば良かったかなぁと後悔しています。次の本です。

変調「日本の古典」講義 身体で読む伝統・教養・知性   http://amzn.asia/d/571rTKp


この鼎談の前後,能楽美術館のすぐ向かいにある,しいのき迎賓館裏で,「秋の空」という,とても楽しげな野外イベントをやっていたので,観てきました。本日は快晴で,親子連れで大賑わい。用事があり,ゆっくりできなかったのが残念。





しいのき迎賓館の中では,Technicsの高級オーディオセットで,アナログレコードを聞くイベントをやっていました。プログレッシブ・ロックを聞く会とのことでした。
 
ここまでは,鼎談の前。以下は鼎談の後です。少し夕方っぽくなっています。

アメリカ楓通りは,先週以上に赤くなっていました。

その後,一旦帰宅して,夕食を食べた後,もう一度ライトアップされた景色を見に来ました。
石川門は赤っぽいライトアップ。何かのメッセージだと思います。
 
 
 
このテントの中にはコタツ。「かまくら」の雰囲気があるので子供たちで賑わっていました。
  


実は,玉泉院丸庭園でプログレッシブロックに合わせてライトアップをするというのを目当てに観に来ました。




良い雰囲気は出ていましたが...少々プログレッシブ・ロックは重苦しい感じでした。というわけで,途中で抜け,せっかくなので,夜の21世紀美術館へ。

本日から新しいコレクション展「アジアの風景」が始まっていました。
この展覧会は,とても面白かったですね。特に展示室全部を使った,宇治野宗輝「プライウッド新地」というのが最高でした。色々なものをモーターで動かすようにセットアップした,巨大な「ピタゴラスイッチ」みたいな感じの展示がありましたが,リアルタイムでモーターの回転などを撮影した映像とロック風の音楽が一体になって,妙に引き付けられる空間を作り出していました。

調べてみると,YouTubeで一部公開されていました。が,これは実物をみないと面白くないと思います。
https://youtu.be/IMLaIYW0vcE

その他にも,いくつか映像作品があったので,また別の機会に観に来たいと思います。
最後はタレルの部屋で締め。さすがに少々疲れた一日でした。