2018年2月12日月曜日

泉鏡花文学賞作家 #千早茜 さんのトークショー(2月10日)を #21美 で聞いてきました。幼少期のエピソードからご自身の小説やエッセーの執筆の作法まで,大変面白い内容。終了後のサイン会にも参加

作家,千早茜さんのトークショーが,金沢21世紀美術館のシアター21で行われたので聞いてきました。このイベントは,「泉鏡花文学賞受賞作家の視点でみる金沢の魅力発信事業」として今回初めて行われたもので,2009年に泉鏡花文学賞を受賞した千早さんに自身の作品や金沢の魅力について語ってもらい,金沢を「文学のまち」としてアピールしていこうというのが趣旨です。

ここ数年,金沢市では,作家や評論家によるトークイベント(しかも,大半は今回同様,無料)がとても沢山行われています。可能な限り参加しているのですが,いずれも面白い内容です。今回は金沢市主催のイベントということで,金沢の魅力発信という狙いはあったのですが,今回も,純粋に千早さんの語るエピソードが面白く,千早さんの作品への興味が沸きました。

今回は,金沢学院大学文学部准教授の蔀際子さんが質問する形で約1時間行われました。その内容を以下にご紹介しましょう。見出しは私が付けたもので,内容にも不正確な面もあるかと思いますが,ご容赦ください。
会場はこんな感じでした。
1 金沢について

  • 妹が金沢在住なので,年数回金沢に来て,毎回,お寿司を食べている。
  • 金沢21世紀美術館の「タレルの部屋」がお気に入り。いつも空いていて,ちょっとお風呂のような感じがする。

# 私を含め,好きな人が多い(と思います)場所ですが,何故か空いていますね。それもまた不思議です。この日は次のような感じ。縁の部分に雪がはみ出していました。
  • 金沢の和菓子の「えがら饅頭」が好き。

# 会場から,「なるほど~」という感じの「声なき声」。婚礼の時に配るお菓子ですね。私も好きです。次のようなお餅です。http://yubeshi.jp/shop/wajima/cat63/5-1.html
2 「魚神」について
泉鏡花文学賞受賞作『魚神(いおがみ)』は,架空の島を舞台にした幻想文学。その中には,遊女が出てきたり,用水が出てきたりする。独特の「湿度」「におい」が感じられますが...

  • 京都や金沢など,茶屋街のある場所に行って取材した内容を生かしている。金沢の辰巳用水,小松の苔寺なども描写に生かしている。
  • マンションと町屋ではやはり感覚が違う。においによって温度や湿度も変わる気がする。

この作品はどうやって思いつきましたか?

  • 大学時代読んだ寺山修司の詩がヒントになっているが,かなり長い時間をかけて,大きくなっていったもの。
  • デビュー作だが,「29歳の時に応募する」ということを決めていた。

デビュー作で泉鏡花文学賞を受賞というのはすごいですね

  • もともとは『魚(さかな)』というタイトルで,「小説すばる新人賞」を受賞したが,五木寛之さんのアドバイス(?)で「魚神」に変えた。泉鏡花文学賞の受賞が決まった時も,全く面識のない五木さんから直接電話が掛かってきてびっくり。
  • 授賞式の時,花が生花だったので「みやびな場所だ」と思った。審査員の嵐山光三郎さんもおしゃれだった。

その後,幻想文学は書いていないですね。

  • そういう依頼が来ないから。幻想文学の場合,設定を全部自分で考える必要があり,時間がかかる。
  • この作品では,「姉と弟」風のちょっと不思議な名付けようのない関係性を描きたかった。その後の作品でも,「名付けようのない関係(例:恋人でない男女がシェアハウスに暮らす)」を描いているが,そういうテーマを追求するのが好き

3 幼少期の日記と読書

  • 父親の仕事の関係で,アフリカのザンビアで小学校1年から4年まで暮らした。母が国語の先生で,日本語学校を作った。
  • 母は,日本人なら日本語で思考する人間になって欲しいと思い,幼少期から日記を書かされ,赤ペン添削をされていた(2歳の頃からお母さんが記録し,5歳からは自分で書いているとのこと)。
  • この赤ペン添削で,全世界に向けてツィッターを書くように,読者の目を意識して書くことをたたき込まれた。例えば,「今日は...があった」というワンパターンの書き方は注意され,色々なパターンで書くようになった。母の視点ではなく,ものすごく客観的に添削されていた。
  • 毎月,日本から岩波少年文庫が5冊送られてきて,それを読んでいた(「日本は本が少ない」「それなら作家になろう」などと思っていたそうです)。
  • 初めは読み聞かせ,そのうちに自分で読むようになった。
  • アフリカではアメリカン・スクールに行っていた。日本の学校はみんなが同じ方向を見ていたり,時間で区切られるのが嫌い。アメリカンスクールでは好きな場所に座れ,勉強した分,進級できた。美術の時間も作りたいものを勝手に作っていた。
  • 帰国後は,「アフリカ踊り(?)」をしてからかう日本の男子にげんなりした。図書室にこもって,ミヒャエル・エンデや江戸川乱歩などの作品を読むのが好きだった。特に江戸川乱歩の怖いけれども耽美的な”やばい作品(『芋虫』『人間椅子』など)”を放課後に読むのが幸せだった。

4 泉鏡花の作品について

  • 泉鏡花の作品では『外科室』が好きである。謎の恋愛である。
  • 鏡花の作品では,一気に違和感なくジャンプするようなところがあるのがすごい。読者は引いてしまうはずだが,鏡花の文体だと「あり」になってしまう。
  • 自分が見ているものは,みんなが見ているものと違う可能性がある。が,自分の見ている世界本当である。それを描きたい(# この辺は,間違っているかもしれません)

5 文学の力

  • 学校をさぼって,図書館に行っていた時期があった。
  • 孤独になった時,救ってくれたのが文学である。文学は...変態ばかりである(例:田山花袋『蒲団』)。こんな変態でもお金を稼いで生きていけるのだと思った。

# ここで,蔀さんが「人間を肯定するのが文学ですね」と素晴らしいフォローが入りました。

  • (千早さん自身はメモ魔とのこと)感じたことをメモしているが,それらを混ぜて,作品として残していくのがうれしい。

音の描写についてはどうですか?例えば『魚神』にはスケキヨという人物が出てくるが?

  • 音を描くのは苦手である。
  • 近未来設定で,日本がうっすら残っている感じを出すためにカタカナにした。
  • 『男ともだち』に登場するハセオについては,あだ名で呼び合う感じを出すためにカタカナにした。音というよりは,イメージである。

6 食べ物のエッセーについて

  • エッセーは苦手で,面白いのか不安だがやっている。
  • 毎週水曜日に食べ物についての『わるい食べ物』というエッセーをWeb上で更新している。http://hbweb.jp/warutabe/
  • おいしいもののエッセーはよくあるので,「トラウマになるような,いやな食べ物」の連載を続けている。
  • ただし,今度「よい食べ物」についてのルポが出る。良い食べものの定義は時代によって違う。

「ガリポリ系」というエッセーについて,果物について...
http://hbweb.jp/warutabe/13_20180207/

  • 柔らかい肉は許せない。テレビでは,とろけるものばかり取り上げている。もっとガンとしたものが良い。
  • アフリカでは,暇だったのでビーフジャーキーを食べていた(あとでビーフでなく,水牛だと分かったが,おいしかった)。
  • 果物は「狩るもの」である。カットフルーツは嫌いで,自分でむくのが楽しい。
  • 野菜を茹でるといった,日常の感覚だけで十分楽しい。食べ物に物語はいらない。

7 これからについて
最後に今後の予定についてのお話がありました。今年もたくさん出版される予定。宇野亜喜良さんの絵に文章を付けた絵本も出版されます。

  • 少し前に宇野さんが挿画を描いた泉鏡花の「天守物語」はとても良かった。
  • 「正しい人」(この辺はあいまいです)では,正しいことばかりを追求していくと,だんだんズレていくことを書いた。

最後に質疑応答が2件ありました。どちらも,千早さんの小説作法のポイントを明らかにするような良い質問でした。

Q1 小説家など「表現の仕事の人」は,孤独で辛い環境でないと良い作品は作れないのか?満たされていても良いのか?

A1 ある程度,お金がないと書けない。切羽詰まった状態にする必要はない。書いている時は,家族の顔なども浮かばない。物質的苦しみを与えながら書くことはできない。健康な方が良い。客観的に読み手のことだけを考えて書きたい。

Q2 『桜の首飾り』という短編集に収録されている男性目線の話(作品名はメモし損ないました)には,リアリティがある。着想する時,インプットで心がけていることはあるか?

A2 一人称でその人になり切って書いている。『魚神』では,心の弱い人を描いたが,その後,いろんな人を描けないとだめと言われ,「からまる」では,色々な世代の人を出している。そのために,意識的に色々な人としゃべって,話を聞いたりしている。例えば,男性の場合は,男女の身長差を想定するなど,日々の暮らしで視点を変えてみている。

その後,サイン会があったので,『魚神』の文庫本を購入して,サインをいただいて来ました。作品ごとに印を作っているとのことです。また10周年記念ということで,今回はもう一つハンコが押してあります。

この本の装丁は宇野亜喜良さんによるものですね


先日からの大雪で,21美周辺も雪がまだまだ残っていました。次のような感じでした。

金沢市役所前は次のような感じ。金沢市出身のピョンチャン五輪出場者の垂れ幕も出ていました。