2016年8月19日金曜日

石川県立能楽堂で行われた紺野美沙子さんによるスペシャル朗読会へ。山本周五郎『鼓くらべ』はこの場所にぴったりでした。

兼六園周辺文化の森ミュージアムウィークのイベントの一つとして石川県立能楽堂で行われた,女優・紺野美沙子さんによるスペシャル朗読会に参加してきました。
開演は18:30,まだまだ能楽堂の外は明るかったですね。

朗読された作品は,加賀藩を舞台とした山本周五郎の『鼓くらべ』でした。この作品の内容にも関心があったのですが,何といっても「紺野さんを間近で見られる」ということをいちばんの目当てに出かけてきました。

紺野さんが水色のすっきりとした着物で舞台に登場すると,客席からは「ほー」っと言う声が聞こえてくるようでした。すらりとした長身にぴったりの着物でした。間近で見る紺野さんからは,イメージどおりの品の良さと親しみやすさが伝わってきました。
開演前の客席(最終的には満席に近くなっていました)。
このイベントですが,前半は今回の朗読の「BGM」として参加した小鼓の住駒幸英さん,笛の吉野晴夫さんと紺野さんによるトークショーでした。この内容が予想以上に面白いものでした。

紺野さんは,プライベートも含め金沢や石川県には何回も来られているそうです。紺野さんは,とてもゆったりと話してくださいましたので,リラックスして聞くことができました。お2人の邦楽器奏者とのトークでも,お2人の語った内容をしっかりと繰り返してくれたので,大変分かりやすく伝わってきました。

今回の朗読作品は,鼓の演奏がモチーフということで,住駒さんによる楽器紹介があったのですが,「鼓の皮は馬の皮でできている」「馬の皮の場所によって用途が違う」「調紐(しらべひも)の握り方で音程が変わる」「鼓は何年も打ち込まないと良い音が出ない。いつもの公演では100年ぐらい経ったものを使っている」など,「へぇ,なるほど」というお話の連続でした。

もう一つの楽器の能管については,解説していただいた吉野晴夫さんのキャラクターにもよると思うのですが,結構アバウトな楽器だという点が面白いと思いました。特に「能管の穴は等間隔になっていないので,ドレミファ...が出せない。楽器によって違う」というのが結構衝撃的でした。そのこともあって,邦楽器のお囃子は,(ひな人形の五人囃子のように)同じ楽器は1つずつとのことです。オーケストラで使われているような楽器(同一の楽器が沢山集まっている)とは全く別の次元の楽器といえます。

その他,金沢で能楽が盛んな理由(前田のお殿様のせい),明治以降も石川県では廃れなかった理由(加賀藩では職人や町人も能楽のプレーヤー(兼業していた)として活躍していた),能楽堂の舞台にある4本の柱の名称など,加賀宝生の能楽についての知識を得ることができました,

後半は朗読でしたが,「スペシャル朗読会」ということで,2人の邦楽奏者による演奏に加え,照明を使った演出もされていました。

山本周五郎の『鼓くらべ』は,教科書などにも採用されている有名な作品とのことですが,私自身,これまで読んだことはありませんでした。物語は,能楽が盛んな加賀藩で毎年正月に行われている「鼓くらべ」(鼓の技を披露し,競い合うもの)がモチーフになっています。主人公はお留伊という15歳の少女です。彼女は自分の技に自信があり,「鼓くらべ」で,相手を負かすことばかり考えているのですが,そこに不思議な老人が現れ...といったお話です。

紺野さんの朗読には大げさなところはなく,2人のベテラン邦楽器奏者の演奏と協力して,ストーリーをしっかりと伝えようとする,といった堅実さがありました。実は...この日は,朝5時頃に起床し,リオ五輪のレスリングなどを見ていたこともあり(前日夜は女子バドミントン・ダブルスも途中までみていたし...),一瞬,ウトウトしてしまいました。その辺を考えると,もう少しドラマティックに演じてもらっても良かったのかな,とも思いました。

この話の後半に「音楽はもっと美しいものでございます」といったセリフが出てきたり,「芸術は競争に相応しいのか?」という問題提起のようなこともされているので,とても面白い題材を扱っていると思いました。

山本周五郎の作品は,非常に沢山,映画化されたり舞台化されたりしていますが,この「鼓くらべ」については,鼓をピアノやヴァイオリンに置き換えると,現代のドラマにリメイクできるかも,と勝手に想像してしまいました。

というわけで,一度,オリジナルのテキストの方もじっくりと読んでみたい作品です。
終了後,あたりはすっかり暗くなっていました。

ミュージアムウィーク全体のリーフレットです。