2012年10月28日日曜日

冨田勲の作品に出てくる「パペピプ親父」探し

タワーレコードのフリーマガジン intoxicate をパラパラと見ていたところ,「冨田勲新制作「イーハトーヴ」交響曲世界初演」という記事がありました。その副標題が「パペピプ親父と初音ミク,賢治の理想郷で再会なるか!?」というものでした。

この「パペピプ親父」という言葉ですが,記事中の言葉をまとめると「冨田勲のシンセサイザー曲に良く出てくる,ヴォーカロイド的なクセのある音」ということになります。この「イーハトーヴ交響曲」は,冨田さんが40年以上前に作った交響詩「銀河鉄道の夜」をベースとして作っている部分があるそうですが,その曲にも「パペピプ親父」が出てきます。

この「イーハトーヴ」交響曲ですが,今回はゲスト(?)ヴォーカルとして,初音ミクがキャスティングされているとのことです。それで,「記事の見出しに「再会」という言葉が使われていることになります。

初音ミクについてはよく知りませんが,「パペピプ親父」という言葉は面白いですね。冨田さんのシンセサイザーの曲には,人間が歌っているような声が,ふっと入ってきたりします。男の声のようなので,確かにパペピプ親父という感じです。

このパペピプ親父ですが この記事によると,手塚治虫のマンガの創作の方法論から学んだと書いてあります。手塚治虫のマンガにも,ストーリーと関係なく「ヒョウタンツギ」というキャラクターが出てきますが,パペピプ親父の使い方もこれと似ています。

というようなわけで,冨田さんがアレンジした曲を久しぶりに聞きたくなってきました。我が家には中古CDで買った「宇宙幻想」というCDがあるので聞いてみたのですが,「スターウォーズ」の最後の方に,このマンガ的な表現が出てきました。オネゲルの「パシフィック231」などは,もしかしたら「銀河鉄道の夜」の雰囲気と通じるものがあるのかもしれません。アルバム中では,ホラ・スタッカートが軽快で楽しくて好きなのですが,今回新たな耳で聞きなおしてみると,どの声部もヴォーカロイドのように聞こえてきます。そこが面白いところです。

冨田さんの作品は,シンセサイザーによる音楽の日本の最初期のものだと思いますが,それ以降の作品はこれを越えていないのではないか?という気さえしてきます(他のシンセサイザー曲をよく聞いていないので推測ですが)。そういう意味では,冨田さんの作品は,「クラシック」と読んでも良いのではないかと思います。

穏やかな秋の土曜日。金沢市立玉川図書館,鈴木大拙館,金沢21世紀美術館を巡りました。やはり金沢は絵になる街です。

今日の金沢は,大変穏やかで過ごしやすい一日でした。昼ごはんを親戚と一緒に食べたのですが,午後からも外に出かけたくなるような気候でしたので,一緒に大型スーパーに買い物に出かけたりして過ごしました。夕食も一緒にすき焼きを食べることにしたのですが,時間があったので,図書館に本を返すついでに市内を自転車で一回りしてきました。

金沢の市立図書館と言えば,最近では,海みらい図書館が全国的に注目を集めていますが,個人的には昔からある玉川図書館の方が落ち着きます。金沢出身の建築家,谷口吉郎と息子の谷口吉生の共同設計ということで,昨年,鈴木大拙館がオープンした後,再度注目を浴びているところもあります。
上の写真は,図書館の中庭辺りです。

図書館の隣には玉川公園があるのですが,徐々に紅葉が始まり,なかなか良い雰囲気になっていました。秋の夕方の日差しも良い感じです。

その後は,鈴木大拙館に行くことにしました。10月18日に行ったばかりでしたが,この建物は何度でも行きたくなる魅力があります。夕方の水鏡の庭の雰囲気を味わってきました。


こちらも建物の回りの紅葉が始まっていました。下の写真は思索空間から見た紅葉です。額縁の中の絵のようにも見えます。

 この博物館は展示物や解説が非常に少ないのが特徴です。現在は,「仙厓と大拙」という展示を行っていましたが,作品が少ないと一つずつをじっくり見ることになるので,悪くないと思います(入場料が300円と安いこともありますが)。展示を見た後,記念スタンプを押してみたのですが,次のとおり,○△□のゴム印が置いてありました。


仙厓の書に「○△□」を書いたものがありますが,大拙もこの書の影響を受けているということで,なかなか洒落た「記念スタンプ」だと思いました。

大拙館ですが,建物の外に出てしまった後も,遊歩道から水鏡の庭を見ることができます。静かな水面に時々波紋(人工的に作っています)が広がるのが何とも言えず,禅的です。
この光景は, 実は建物に入らなくても無料で見れてしまいます。考えてみると,結構大らかな建物ですね。その点でも禅的(?)なのかもしれません。

せっかくなので,帰りに21世紀美術館にも寄って行きました。夕空に飛行機雲が重なっていました。何もかもアートに見えてしまいます。
こちらも数日前にも行ったばかりでしたが,取りあえず「タレルの部屋」に行ってきました。夕暮れのタレルの部屋というのは,金沢名物の一つになっているようです。この日も結構沢山のお客さんが居ました。

11月4日で「ソンエリュミエール:物質・移動・時間」の方の展示が終わるので,今回はこちらの方を見てきました。現代美術も見慣れると愛着が沸いてきます。例えば,ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスによる「無題(コンクリート・ランドスケープ)」などは,”ただのコンクリートの塊”なのですが,クリンコクロンという音と合わせて,何回か見ているうちに,妙にしっくりと馴染んでしまいました。

美術館の外に出てみると,空がかなり暗くなっており,月が出ていました。
これもなかなか,面白い写真になりました。「新しい金沢らしい」光景だと思います。ちなみにこの写真の雰囲気ですが,エドワード・ホッパー「夜ふかしをする人たち(Nighthawks)」という作品とちょっと似ている気がします。

というようなわけで,晴れた秋の夕暮れの金沢市内というのは絵になる場所ばかりです。

2012年10月21日日曜日

金沢工業大学学園祭で行われた講演会「現代文明の源流を旅する:世界を変えた書物より」(竺覚暁×橋本麻里)を聞いてきました。

このところ毎週のように無料で行われる講演会を聞きに行っています。実は10月18日も,午後から休みを取って,姜尚中さん,玄侑宗久さんらが登場した「金沢・現代会議」を聞いてきたばかりでした。鈴木大拙館開館1周年記念のイベントで非常に聞きごたえがありました(できれば別途紹介したいと思います)。

こういう講演会に参加して良い点は,読書するよりは短時間でエッセンスをつかむことが出来る点です。 この「現代会議」でも,姜尚中さんの「悩む力」に書かれている内容がより明確に伝わってきた気がします。

というわけで,今日(10月20日)は, 金沢工業大学学園祭で行われた「現代文明の源流を旅する:世界を変えた書物より」(竺覚暁×橋本麻里)という講演会を聞いてきました。このサブタイトルにある「世界を変えた書物」の部分ですが,今年の4月に金沢21世紀美術館で行っていた「世界を変えた書物展」  と関連があります。

科学技術史の名著の初版本をずらりと揃えて,無料で展示したこの展覧会に感銘を受けた美術ライターの橋本麻里さんが,この展覧会の企画を担当した竺先生にその内容についての話を伺うという内容でした。 私自身,橋本さん同様に「すごい」と思ったので,聞きに行くことにしました。

前半はこの展覧会の基となった,金沢大学ライブラリーセンター所蔵「工学の曙」文庫に収録されている図書についての竺さんによる解説でした。橋本さんが聞き手になる形で,古代ギリシャのプラトンの時代からアインシュタインぐらいまでの科学史のダイジェストを書籍のスライドを交えて知ることができました。

 後半は,「知とその記録」の意味に関する橋本さんの考えをスライドを交えて紹介していくものでした。橋本さんは,日本美術を主な領域とするライターですが,知を載せるメディアの移り変わりの話や,電子化が進みつつある本のこれからなど,私自身,非常に興味のあるテーマについて,美しいスライドで見せてくれました。

まず,「知る」という言葉が「白」という色と関係しているという話が面白かったですね。ぼんやりとした暗闇から白いものが鮮やかに浮かび上がってくるのが「知」のイメージと言えます。なるほど,と思いました。

人間の「知への欲求」は,根本的なものであり,「知の記録」である「工学の曙」文庫のような 書物に学生たちが接することは,「知の末端」に自分がいることを考えさせてくれる。その点で意義があるというようなことをおっしゃられていました。

今後,特に名著と呼ばれる書籍については,著作権が切れているのでどんどん電子化されWebに公開されていくことになると思いますが,3次元的なモノとしての本の価値は,まだまだ大きいと私も思います。展示した場合,モノと画像では迫力が違いますね。

ただし,今後,Web上でのコミュニケーションによって科学技術が進歩していくようになるとまだ状況が変わってくるのかもしれません。そういう点では,本だけでは歴史を表現できない時代がどんどん近付いているとも言えます。時代を象徴する時に,新聞の見出しを使ったり,テレビのニュース映像を使ったりしますが,そういったものに変わって行くのかもしれません。

今回のトークは,特に竺先生の声がやや聞き取りにくかったのですが,豊富なスライドのお陰で,大変よく分かりました。改めて,このコレクションはすごいなと感じました。

会場の教室。ライトがややまぶしかったですね。
 PS. 金沢工大の学園祭ですが,午後からは篠山紀信さんが来ていたようです。さらに夕方には,漫才のサンドイッチマンのステージもあったようです。企画の点では,金沢近辺の大学の学園祭の中ではいちばんかもしれないですね。







2012年10月13日土曜日

金曜日の夜は21世紀美術館に行きたくなります。

8~9月にかけては月日が経つのが非常に長く感じたのですが,10月に入った途端,時間の経過が早くなった気がします。早くも10月13日です。このところ,月曜日から金曜日までは,ゆったりと考える暇もなく,慌ただしく過ごすことが多いので,金曜日の夜は開放された気分になります。

そういう時,時々,金沢21世紀美術館に行きます。金曜日だけは開館時間が長いので,仕事が終わってから行っても展覧会スペースに入ることができるのです。お客さんの数は土日とは比較にならないほど少なく,かといって誰もいないわけでもなく,ちょうど良い感じでゆったりと時間を過ごすことができます。

昨晩は,現在やっている「ソンリュミエール,そして叡智」の中のいくつかの作品をゆっくり見てきました。日中慌ただしく観るのとは違い,夜静かな雰囲気でみると,この展覧会のタイトルどおり「音(Son)」にポイントがある展覧会だと分かります。夜だと「光(Lumiere)」の方も効果もよく分かります。

印象に残ったのは,梅田哲也「ほとんどすべて忘れている」(多分)という展示室6の作品です。真っ暗な部屋の中に動いている電気機器がいくつかあり,時々音を出したり,光りながら動いたり...という不思議な作品です。最初,さっと見た時は,正直なところ,わけが分からなかったのですが,しばらく見ているうちに,不規則な動きの中から生命力のようなものを感じてしまいました。暖かみは感じないけれども,どこか嬉しくなり,不思議と気分が落ち着きました。

その後,タレルの部屋に行って一休みしました。部屋を撮影してみたのですが...

 
 高感度設定で撮ったせいか,わけの分からない写真になりました。タレルの部屋といえば「青空(正式名はBlue Planet Sky)」なのですが,真っ黒の夜空というのも,これはこれで面白いので,載せてみました。

最後にミュージアム・ショップに寄って,本を1冊買いました。21世紀美術館の有料の展示室に入るたびに友の会メンバーはスタンプを押してもらえるのですが,それを溜めて,7月頃に「ミュージアム・ショップ500円割引券」に交換しました。その期限が迫ってきたので,何か買うことにしたものです。

普通のグッズでも良かったのですが,1500円以上のものにする必要があったので,久しぶりにハードカバーの本を買うことにしました。買ったのはホンマタカシ著「たのしい写真」という本です。数年前,この人の展覧会をやっていた時に見て,面白そうだと思った本です。現代美術については,は写真を使ったものが多いのですが,この本を読みながら,アーティストたちは,どういう意図で写真という手段を使っているのか考えてみようと思います。

2012年10月7日日曜日

翻訳百景 「ダ・ヴィンチ・コード」翻訳者の越前敏弥さん(金沢市出身)の講演を石川県立図書館で聞いてきました。

今日の金沢は,雨が時々降ってくるけれども,結構空は明るい...という非常に微妙な天候でした。そんな中,石川県立図書館で「ミュージアム・ウィーク」の一環として行われた,金沢市出身の翻訳家・越前敏弥さんの講演会を聞いてきました。入場無料ということもあり,会場は大盛況でした。

 越前さんのお名前を聞くのは初めてだったのですが,「ダ・ヴィンチ・コード」の翻訳者という宣伝文句に釣られて, 今回は参加して来ました。ただし,話の内容としては,「ダ・ヴィンチ・コード」の話はほとんど出て来ず,海外小説の翻訳の面白さや難しさを豊富な事例とともに紹介するというものでした。「難しさ=面白さ」ということで,最初から最後までリラックスして楽しめました。話を聞き終わった後は,「頭の体操」をしたような気分になりました。

まず,翻訳者に必要な資質として,(1)日本語が大好き,(2)調べ物が大好き,(3)本が大好きという3点を上げていました。「英語が得意」というのは前提条件とも言えるのですが,越前さんによると,ウェイトとしては20%程度ではないか,とのことでした。翻訳された小説は,「結局のところ日本語」だからなのですが,この日の越前さんの話を聞いて,その理由が納得できました。

例えば,「仁王立ち」「寿司詰め」「狂言自殺」といった言葉を翻訳小説で使うかどうか,といった言葉のセンスが大切になります。越前さんは「和臭」という言葉を使っていましたが,翻訳小説を読みながら,「寿司がイメージとして頭に浮かんでしまうのはNG」ということになります。ちなみに,この3つの例の中では「狂言自殺は,OKだろう(人によって意見は分かれると思いますが)」とのことでした。

その他,英語によく出てくる,頭韻をどう訳すか,パロディ小説をどう訳すか...など経験豊富な越前さんならではの話を伺うことができました。

ちなみにダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード(The Da Vinci Code)」のパロディ小説といして,”The Da Vinci Cod" by Don Brine という本があるそうです。Codというのは,タラのことで,Brineというのは塩水ということで,塩漬けになったタラをモナリザが持ちあげている表紙です。

amazonで調べてみたら出てきました。↓次の本です。
http://www.amazon.co.jp/The-Da-Vinci-Cod-Parody/dp/0060848073
 Fishyと書いてありますが,これは「うさん臭い」ということと魚を掛けているとのことです。

あまりにバカバカしくて翻訳されていないそうですが,翻訳講座の素材には,かえってぴったりだそうで,この本をネタに英語学習関係の新聞に連載を始めたとのことです。例えば,小説が始まってすぐに殺されてしまう,ジャック・ソニエールがCodの方だと,Jack Sauna-Lurkerとなります。パロディ小説の場合,これをどう訳すか?といった課題を翻訳学校の生徒さんにやらせたりしているそうです。

普通の小説ならばそのまま発音どおりカタカナにするのですが,パロディだと分かるように,例えば,ジャック・サウナデネール(=サウナで寝る) といった風に変えてしまうことも「あり」とのことです。こういう話は非常に面白いですね。こういう話を聞いているうちに,実際に翻訳小説を読んでみたくなりました(とりあえず,「ダ・ヴィンチ・コード」を読んでみようと思います)。

越前さんは,金沢市出身ということですので,是非,また来ていただいて,「続編」的な話を聞いてみたいものです。

PS.終了後,越前さんの本を持っている方にサインをします,ということでしたので「念のため」持って行っていた角川文庫版の「ダ・ヴィンチ・コード」にサインをしていただきました。